[自作小説]彼岸にて10

小説

ぱらぱらと雨がアパートを打つ.目が覚めた時,僕は死にたくなった.だから僕は世界の変革を望んだ.

ぶるぶるとスマホが振動した.
画面に映る連絡先には「田村ことみ」とあった.登録した記憶もないのに名前で表示されていた.
はい,僕は電話を取る.
「大原敦彦君,今日空いてる?」
「いいえ」
「嘘はだめよ.馬場道夫が先日話してくれたでしょ」
「あなたは誰ですか」
「いずれわかるわ」
僕は電話を切った.何かおかしなことが起きている.
僕は動揺した.でもどこか冷静でもあった.相反する感情がぐるぐると僕の体内で駆け巡る.そしてまた別の感情が分岐して,それらはときに相反し,ときに区別をなくし,二項対立に矛盾した.ぐちゃぐちゃと感情がまとわりついた.
どれが本当の僕だ?これか?あれか?
2Lのペットボトルを逆さまにしたように不規則に吐瀉物があふれた.
お前は誰だ?模倣体が問いかける.お前は何を愛し何のために生きているんだ?逃避行を繰り返し,考えないようにいしていたんだろ.こうやって俺を出せばすべてフィクションで片づけられると思っているんだろ?
「黙れ」
「黙ってほしかったら,逃げるなよ」
また吐いた.模倣体との会話をさけるために.いわれたそばから逃げた.自己嫌悪に陥った.



雨は昼過ぎにやんだが,空はまだどんよりと重たい雲が覆いかぶさっていた.
僕は昼食を済ませ,外出の準備をした.
ぶー,スマホが振動した.
「はい」
「大原君,君のお気に入りの神社に来て頂戴」
「はい」
傘を持って僕はあの森へ向かった.

(つづく)

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