泣きつかれ声が枯れてしまった僕のもとに田村ことみはゆっくりと近づいてきた.そして優しく僕の頬にキスをした.
僕は安堵した.
「死にたければ死んでも構わないのよ」
彼女は最も適切な言葉を知っている.
「何か目標があってそのために生きることを選択する人もいる.他人を悲しませたくないから生きることを選択する人もいる.みんな何かしら理由があって生きているの.日々をただやり過ごし,何のために生きるのかわからない人もそう.でもあなたは違うわね」
…それは次元の観点で違う.
もう一度彼女は僕にキスをした.僕は満たされた.
森の妖精のキスは,はなから存在していなかったかのように消えてなくなった.
永遠にとどめようと,僕は時計の針を戻した.
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鶯が目の前を横切った.
僕は制服というものが嫌いだった.はずだった.
15分ほど自転車をこぎ,学校につく.僕は校舎裏の森へ迷わず直行する.森に行くまでの道中には川を渡るための小さな橋があり,そこを渡ると今度は芝生に彩られた裏庭が待っている.僕はさらにその先に見える枝がアーチ状に曲がった森への入り口へと進む.アーチを過ぎた先には森が広がっており,誰にも見られることのない秘密の隠れ家となっていた.
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