[自作小説]彼岸にて2

小説

綻びほころび
中学校は5つの小学校からなり,生徒数は1学年100以上.今思い返せばまだまだ生徒数は少ないが,当時の僕にはあまりに環境が違いすぎて,どうしていいかわからなくなった.文字どうりどうしていいかわからなかった.自分の存在が宙に浮いてしまったかのように錯覚した.それはまるで酔いにも似た混乱だった.

僕はあの日のことを思い出す.その日は春特有の薄く色づいた青空が廊下の窓枠いっぱいに広がっていた.
「ねえ,君,何さん?」
目の焦点をとっさに声のしたほうに合わせると,見知らぬ女子生徒3人が僕の瞳を見つめ返してきた.
ふいに僕は目をそらした.
「えっと,大原です.」
「ふーん,なんで敬語なの.」
「いや,別に.」
面白っ,と3人が笑うと,僕はなぜだかほっとした.その直後,この一部始終を同じ小学校の生徒に見られてやしまいか不安になり,いてもたってもいられなくなった.

どんな会話だったか覚えていない.皆,他の小学校生徒に対して興味があっただけだ.
誰にとってもそれだけの話.
徐々に打ち解けて,新たな友達を作っていく.僕も親しい友達を作ることができた.

「お前,真面目やな.」
褒めているのか皮肉を言われているのかわからなかったが,僕は思ったとおりに解釈してくれた友にひとまず安堵した.そして見下した.わずかに,見捨てないでと思いながら.

同じ小学校の生徒には,僕は,いびつに映ったと思う.彼,彼女らに対してのみ綻びを見せるかわりに,僕は,彼,彼女らとの会話は必要最低限にし,関わりをほほ断ち切ったのだから.

(つづく)

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