[自作小説]彼岸にて3

小説


大学に入った僕は,うすぼんやりと死ぬことに取りつかれていた.それはいよいよ自分の人生を自由に選択できるフェーズに入ったゆえだろう.決められた線路を進み,決められた目標地点を目指した過去とは明らかに異なる.過去は,相対的なものであれ,すがるものが存在した.学業の成績,部活動の成績…なんでもよかった,拠り所となってくれればなんだってよかった.

自由とは空虚だ,と僕は思う.もちろん自由にはいつも恋焦がれているし,得られた瞬間の解放感は何よりも素晴らしいと思っている.だが至福の時間は長く続かない.次第に何もしないことに退屈してくる.じゃあ,好きなことをしよう,と思えども,そこに強迫観念はなく,どこか違和感が残る.「この時間の使い方は正しいのか?」,「自分は価値のあることをしているのか」と…
何かすべきことを…何かに埋まっていないと,何かに忙殺されないと,何のために生きているのかわからなくなる…

僕は死ぬことに取りつかれていた.



8月,長い夏休みが訪れた.飽きもせず,蝉は鳴いていて,太陽はまるで貝殻の内側のようにぎらついていた.
朝10時半,僕は朝食にバナナとゆで卵1つを食べ,狭く,しかし,落ち着くアパートを出た.アパートの前のアスファルトは蜃気楼に歪み,太陽を反射させた車が時折通り過ぎてゆく.
わずか10分されど,うだる暑さの中自転車をこぐのは辟易した.日課の参拝をこなす,ただそれだけの理由で汗水たらす.僕はそれだけの価値がこの神社にはあると思っている.小さな神社だが社は森で囲まれ,神秘的で,そこはまるで秘密の場所のようだからだ.この世から自分を切り離せば,そこには真実は存在しない.理から外れ,夢が具現化する.何にも染まらなかった子供戻れる気がした.

(つづく)

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